カルトーシカ
はーい。
帰宅帰宅。
今日ね、二部練だったんですけど、合間に家に帰ってくるじゃないですか。
もう正直ヘトヘトなんです。一刻も早く身体を横にしたいし、スーッと昼寝に入りたい。ジーンズもパーカーも脱いで、ほとんどパンツ姿でベッドに入るじゃないですか。
この二部練の合間の昼寝って結構大事で、気持ちよく寝たいんですけど、うまく寝付ける時と寝付けない時があるんです。ただ今日は「寝付ける日」で、いいぞいいぞ、寝れそう寝れそう、あ、もうホント眠れるかな〜
ってあたりで
ピンポーン!
って玄関のベルが鳴ったんです。
ん?
僕の家、5階なんですけど、エントランスにオートロックあるし、郵便物は1階にポストがあるし、友達に家教えてないし、訪問客なんてあり得ないんですよ。
ドキッとしますよね。「誰?何?緊急事態?」とかいろいろ考えるんですよ。2年前に浸水で隣人から殴り込み食らったこともあったし、知らんお兄さんが来て何事かロシア語でまくし立てて帰った日もあったし、とりあえずピンポンが鳴ったとき、僕を占める感情は「恐怖」なんですよ。
で、光速で考えを巡らせながら、光速でジーパン履いて、光速でTシャツ着て、光速で玄関まで行くじゃないですか。でも身体は疲労してて、頭も眠りかけなんで、なんの予想も立たないんですよ。
ただ悪いことしたわけじゃないんで「まぁ強盗じゃなきゃいいや」とか思いながら、一応蹴りは入れられるように靴だけ履いて、ドア開けたんですね。
そしたらおじさんが一人で立ってて、
ジャガイモ余ってたらくれない?
って言うんですね。
これ、完全に僕の聞きまちがいじゃないですか。だってね、ジャガイモ欲しさに知らない家のピンポン押さないでしょ。遼太郎、起きて起きて。おじさんは何か困っているみたい、もう一度聞き返してみよう。
なんですか?
ジャガイモ。
ジャガイモがなんですか?
ほしい。
問えば問うほど、冷静に判断すればするほど、ジャガイモをねだるおじさんが目の前にいるんですよ。
ジャガイモね、1キロ50円くらいで売ってるんです。しかも主食、日本でいうお米の地位ですからね、ジャガイモを切らすことって家庭でもほぼない。しかもこのおじさん、身なりからして物乞いとかお金に困ってる人ではないんです。じゃあ一体、なんなのか。
これはもう、完全にジャガイモの精じゃないですか。
というか、俺も聞いたことはあるんです。「醤油貸して」とか「夕飯のカレーが余ったからお裾分け」とか、暖かいご近所付き合いというか、古き良き日本の風景というか、俺は経験したことないけど、憧れはあったんです、そういうの。
だからこれは、コンクリートジャングル東京で育った僕に対して、ラトビアの豊穣な大地がくれたチャンスなのかなと。先入観を捨てて、芋のようにホクホクな心を!っていうメッセージなのかなと。そのために目の前のジャガイモの精は派遣されたのかなと。
だから思いっきり、本当に心の底から「ない!」って答えて、光の速さでドア閉めて鍵かけてチェーンしました。
なにがジャガイモの精だ!お前ただのおっさんだろ!
危うく騙されるところでした。
ちなみにベッドに戻ったら「寝付けない日」に変わってて、一睡もできずに午後練に向かいました。
芋くれって普通?おかしいよね?
寝よう。おやすみ。